野菜作りは、土が命―。
千葉県・香取市で農園を営む加瀬嘉男さんは、25年以上にわたり有機栽培の野菜作りを続けています。
加瀬さんのつくる野菜は、生で食べてもえぐみがなく、
野菜嫌いの子どもでも美味しく食べられるものばかり。
加瀬農園の土へのこだわりと農業にかける想いをお聞きしました。
[前編]
関東ローム層の肥沃な土壌に恵まれたこの地域では、古くからさつまいもをはじめとした根菜の栽培が盛んです。
加瀬さんの畑では、ニンジンが主な作物。そのほか季節ごとに、トウモロコシ、ピーマン、キャベツ、ネギ、ニラなどあらゆる野菜を作っています。
「最近、ボロネーゼという品種のズッキーニを作ったんですよ。普通は濃い緑なんだけれど、それは黄緑色をしていてあまり人気がなくてね。でも、あるスーパーの担当者さんに『これは美味しい。加瀬さんの野菜は違いますね』と言われて。その後スーパーで試食販売したところ、1本も残らず売れたそうなんですよ。聞けば、事前にお客さんに通常のズッキーニとボロネーゼを食べ比べてもらったところ、『ボロネーゼのほうが甘みは多くて苦味は少なく、生で食べたときに美味しい』という人が多かったんだって。そこで、火を通さずに調理できるナムルにして試食販売したそうなんです。つまり、美味しく作れば調理のアイデアが広がる。それくらい、うちの野菜にはチカラがあるということをお客さんに教えてもらいましたね」
美味しい野菜と出会うことで、料理のレパートリーも広がり、食べる楽しみや喜びも増える。そこには、有機野菜ならではの最大の特徴も大きく関係していました。
「ピーマンも、普通は種の部分は捨てちゃうでしょう? でも有機栽培で作ったピーマンは種の部分までみずみずしく、歯ざわりもやわらかくて美味しいんですよ。本来は捨てるはずの部分でさえ、生でもえぐみがなく美味しく食べられる。それが有機野菜の魅力ですね」
たそう言われて生のピーマンを種ごとかじってみると、本当に甘い! これまで食べていた野菜の常識を覆すほど、加瀬さんの作る野菜には驚きと感動があります。そんな野菜作りにおいて、加瀬さんが最も大切にしていることとは?
「土づくりが一番です。良い土の条件というのは、畑の状態を整えてくれる微生物がいること。微生物が土の中の有機物を分解してくれると、アミノ酸が生まれるんです。本来、植物はこのアミノ酸によって育てられるもの。化学肥料を使って作物を育てようとすると、光合成の際に体内の糖分を消費してしまって、甘みが減ってしまうんです」
加瀬さんいわく、畑の土を微生物がいる環境に保つには、微生物の餌となる炭素が重要とのこと。
そのために、加瀬さんの農園では堆肥も手作りをしています。
「堆肥は豚ぷん、ウッドチップを混ぜ、土中発酵で一夏寝かせたものを使用しています。炭素比率が高いウッドチップに豚ぷんを混ぜることでバクテリアの活動が活性化し、野菜を収穫した後の残渣も分解してくれるので、次に植える作物の資源になるんです。普通の畑では残渣はゴミにしかならないので、農薬を使って除去しているのが現状です。しかし我々の信念は、本当の意味でのクリーンな畑をつくること。畑の土は小川の流れと一緒で、循環している限り腐ることがないんです。手間はかかるけれど、このやり方でお客さんに『美味しい』と言ってもらえると、間違っていなかったんだという自信になるし、より美味しいものを届けたいというモチベーションにもつながります」
加瀬農園園主/加瀬嘉男さん
農薬・化学肥料を使わない有機栽培で25年以上野菜作りを行う。
「おいしい」「あたりまえ」「安全・安心」を千葉県から各地に届けています。