野菜作りは、土が命―。
千葉県・香取市で農園を営む加瀬嘉男さんは、25年以上にわたり有機栽培の野菜作りを続けています。
加瀬さんのつくる野菜は、生で食べてもえぐみがなく、
野菜嫌いの子どもでも美味しく食べられるものばかり。
加瀬農園の土へのこだわりと農業にかける想いをお聞きしました。
[後編]

土づくりこそが、美味しい野菜を作る最大の秘訣だと語る加瀬さん。
おもな作物のニンジンのほか、季節に応じて様々な種類の野菜を育てることも良い土づくりには欠かせないそう。

「同じ土地に別の科の作物を栽培する、輪作方式も採用しています。コンパニオンプランツという言葉もある通り、植物にはそれぞれに相性があるんです。例えばさつまいもと豆科、セリ科とアブラナ科などは相性がいいですね。もちろん逆もしかりで、相性の悪い植え合わせもあります。輪作によって土中の菌や栄養素のバランスを保つのは、とても大切なことなんです。言ってみれば、土づくりは人間の世界と同じ。良い人もいれば悪い人もいて、それでうまくいっている。土の中にも良い菌と悪い菌がいて、それぞれがバランスを取り合うことで害虫や病気の被害を少なくすることもできるんです」

農薬を使う必要のない畑であるために、努力と工夫を重ねる加瀬さん。
そもそも加瀬さんが土づくりに目覚めたのは、どのようなきっかけだったのでしょう?

「もともと親の代から農家が続いていて、自分は4代目。親は真面目な人で、早朝に起きては夏草をすき込んだりして一生懸命土づくりをしてくれていましたね。昔はそれが普通だったけれど、昭和40年頃になると高性能な農薬が入ってきて、化学肥料が普及するようになって。実際、それを使ったらびっくりするほど良い野菜が採れたんですよ。でも効果は3~4年しかもたず、次第に作物の出来が劣るようになった。そうすると、さらに新たな薬品が登場してくる…。かれこれ40年間くらい、農家の人はそうやって悪いスパイラルを続けてきたんですよね。

でも自分は、このままではいけないと気づいたんです。農薬を使うことに慣れてくると、ある日突然農薬が「安心感」・「保険」に変わるんです。自分の安心感を得るために、何度も何度も農薬を使うのが平気になってくる。それで失敗したら品種のせいにしたり、天候のせいにして、そこで終わってしまう。農薬を使っている人に限って、失敗したことを土のせいにはしないんですよね。つまり、農薬ありきの狭い世界しか見えていない。土の世界が見えていないんです。それこそが、農薬を使うことの怖さだと思います」

「安心して食べられること」が当たり前ではなくなりつつある今の世の中。
加瀬さんが有機栽培にこだわる背景には、こんな想いがありました。

「土づくりに力を入れて農業に従事しようと思ったのも、人との出会いがあったから。農家の息子はほとんどが農業高校に行くし、卒業後は農協に勤めたりして、もうそこで人生にレールが引かれているんですよ。でも若かったから、自分の職業に対して自信が持てなかったし、もっと世の中のためになりたい、認めてもらいたい、この仕事をやっている意味を持ちたいとずっと考えていて。そのとき、『農業を楽しく、おもしろくする』という理念を掲げる生産者連合の社長と出会ったんです。そこから色々な人に有機栽培を教えてもらって、ここまできたんですよ」

今では、消費者と生産者をつなぐネットワークが徐々に確立され、消費者に直接「加瀬農園の野菜」として確かなものを届けられることに、喜びを感じているといいます。そのために、加瀬さんの農園では堆肥も手作りをしています。

「農業でも、生産の世界とマーケティングの世界があって、その間には大きな山脈がある。今までの農家は生産の世界で一生懸命頑張ればよかったけれど、山を登った先には消費者が待ってくれているんです。もし山の手前だけで過ごしている生産者だったら、きっと野菜を作るモチベーションも、『他の農家よりも多く売ろう』くらいしか持ちようがないんじゃないかな。果たしてそれで夢が持てるのかなと考えたときに、やっぱり消費者の顔が見えているほうがモチベーションは上がりますよ。その人達に『美味しい』って言ってもらえることが一番のやりがいだし、その代償として利益をもらっているようなものですからね。

もちろんお金もひとつの成果基準だし、結果を出していかなければならない現実もあります。でも、今は楽しみながらやれていることが何より。農業の楽しさって本当に身近な所にあって、例えば、風の気持ちよさなんかもそのひとつ。夏の風と冬の風はもちろん違うし、現場で生きてると体で伝わってくるんですよ。それと、雨があがったときにヒバリが鳴くんです。『ああ、これから仕事できるんだな』って、彼らが教えてくれているように感じてしまってね。お客さんに発送する商品にも、自分がこんな気持ちで野菜を作っていることをのせて届けられたら嬉しいですね」

加瀬農園園主/加瀬嘉男さん

農薬・化学肥料を使わない有機栽培で25年以上野菜作りを行う。
「おいしい」「あたりまえ」「安全・安心」を千葉県から各地に届けています。

加瀬農園園主/加瀬嘉男さん